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特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談

会計プロフェッショナル ~汝の名は公認会計士~
その魅力、やりがいを語る後編

特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談 特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談

歴史的企画もいよいよ最終回を迎えた。今回は、公認会計士は人気職業か、公認会計士は社会からどのようにみられているのか、公認会計士の待遇面での評価はどうなのか等、広く一般に関心が高いであろうテーマについて、ざっくばらんに語っていただいた。

鼎談メンバープロフィール

藤沼亜起Fujinuma Tsuguoki

藤沼亜起 公認会計士中央大学商学部卒業、日本人初、世界300万人の会計士が所属する国際会計士連盟(IFAC)の会長に就任。IFRS財団Trustees(評議員)、日本公認会計士協会会長、日本公認不正検査士協会(ACFE)理事長、中央大学大学院戦略経営研究科特任教授等を歴任。わが国を代表する複数の企業等の社外役員に就任

八田進二Hatta Shinji

八田進二 青山学院大学名誉教授、大原大学院大学教授、博士慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了、金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長・監査部会長)日本監査研究学会会長・日本ガバナンス研究学会会長、わが国を代表する複数の企業等の社外役員を歴任。内部統制のデファクトスタンダードであるCOSO報告書を翻訳したことでも有名

三宅博人Miyake Hiroto コーディネーター・進行

三宅博人 公認会計士 中央大学経済学部卒、経済人コー円卓会議(CRT)監事、(公社)日本内部監査研究所研究員、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)企画委員。
ACFE評議員、日本公認会計士協会国際委員会委員等を歴任

公認会計士は人気職業か?

三宅

公認会計士は人気職業か?三宅いわゆる海外ではBIG4と言われる国際ネットワークの会計事務所、PwC、KPMG、Deloitte、EYは、企業の人気就職ランキングでも軒並みトップ10に名前を連ね、アイビーリーグを卒業した優秀な学生達のあこがれの的と聞きます。

日本の場合はあずさ、トーマツ、新日本、あらたといった監査法人本体は、公認会計士試験合格者が採用の中心であり、関連するコンサルティング会社と社名も法人格も分離されているなど、条件は大きく異なりますが、人気という意味では大きく差が開いていると感じます。この点については、どのようにお考えでしょうか。

藤沼

公認会計士は人気職業か?藤沼アメリカも2001年のエンロン社の不正会計以降、一時は会計事務所に対するバッシングみたいなものがありました。遡れば、1980年代の後半から1990年代にかけてアメリカの経済ブームによる人手不足みたいなところがあって、かなりの人がウォールストリートやシリコンバレーの新興企業に行ってしまったため、事務所勤務の会計士は減少したようです。

一方、事務所側も労働力維持のためにかなり努力しました。女性を大事にするとかピープル・ファーストの文化とか、そういうことを一生懸命やってきて、結果的にそれが人気の上昇につながってきました。もちろんアメリカの事務所は人のサイズも何万人なので、雇用規模も大きいのです。

しかし、最近の米国では、会計と税務の分野を中心とする公認会計士試験が時代の要請に合っていないのではないかという批判が起こり、新たにテクノロジーという新分野を試験科目に加えました。新試験は2024年からスタートすると聞いています。

日本では、公認会計士・監査審査会が公認会計士試験を担当していますが、資格試験の改革は遅れている、つまり、これからのように感じています。

日本の場合、4大法人といえども監査法人はそれぞれ1万人にも満たないわけで、数万人規模の大企業と比較したらまだまだというところがありますので、将来的にそのサイズに匹敵するようになれば、人気ランキングに登場する会計事務所も出てくるのではないでしょうか。

ただ、日本の場合、人気就職ランキングは、そのときどきの世相を表し、かなり変動しているという印象があります。

三宅

三宅公認会計士の資格試験に受かっていなくとも、新卒の人間が大手会計事務所に、一般の企業に就職するのと同じような形で入所するということについてはいかがですか。

藤沼

藤沼私は、全員が試験合格者である必要はなく、むしろ大学時代に試験勉強だけして他の知識や経験がなくて会計事務所に入るよりも、もう少し広い意味でのいろいろな勉強をした人たちにこの業界に入ってもらった方が層は厚くなると思いますし、組織としての魅力も出てくるのではないかと思います。

八田

八田ランキングというのは、欧米社会は非常に好きですが、ランキングに出るためには正確な情報をみんなが共有しなければいけません。残念ながら、日本では我々の身の回りでは、会計とか公認会計士という言葉は余りにも当然のように使っていますが、まずもって、本当にこういう職業があることを皆が知っているのかということが問題です。

もう半世紀前ですが、私は大学に入るまで公認会計士という職業について知りませんでした。大学2年で初めて簿記という選択科目に出会い、楽勝科目だということで履修したという程度です。その時の担当教員が公認会計士の資格を有する非常勤の先生で、「これから会計士はいいぞ、もうかるぞ」といった発言を耳の奥に覚えていたわけです(笑)。その後、就職間際にどういう道に行こうかと考えて入ったのがこの会計の道でした。

その時よりは、はるかに情報化社会になってこれだけ新聞でも騒がれているから知られているとは思いますが、それは経済面での小さな記事が中心です。最近では1面にも出ますが、まだまだです。それも新聞を読まない世代の人が多くなっていますから、我々が考えている以上に職業そのものを正しく理解できていない人がいっぱいいると思わなければいけない。大人もそうですが若い人たちが、ランキングだと言っても知らないのだから登場しようがないですよね。

公認会計士は社会からどのように見られているのか?

公認会計士は社会からどのように見られているのか?
三宅

三宅ところで公認会計士という職業、あるいは、公認会計士自身について、社会の人々はどのような目で見ているのでしょうか。

八田

八田例えばテレビドラマや映画など一般の方が見聞きする情報の中で、残念ながら公認会計士が主役になったり、あるいはブームを呼び起こすような環境は全くありません。

弁護士やお医者さんの物語は結構ありますね。「行列のできる法律相談所」とか、「ドクターX〰外科医・大門未知子」など、高視聴率のテレビ番組はあります。それに対して、例えば、「行列のできる監査法人」とか、「公正独立の公認会計士の世界」などといったテーマでの番組は全く生まれないのでしょうね(笑)。したがって、まだまだ認知度が低いということがあると思います。こうした状況を払拭しなければ、本当の意味で、会計プロフェッションのすそ野が広がった中でも、必ずしもいい人材が確保できないのではないでしょうか。

三宅

三宅そういえば、2008年に、八田先生も監修されたNHK土曜ドラマ「監査法人」は、それなりにインパクトがあったように記憶していますが、最近ではあまりメディアの題材として取り上げられることは少ないようですね。

もっとも、公認会計士の独占業務である監査業務は、独立・第三者の立場で企業の財務書類の適否について客観的に評価するという意味においては、弁護士というよりも判事に近いのでしょうが、一般の人からみればわかりにくい部分がありますよね。

藤沼

藤沼そうですね。我々の職業の特殊性はあると思います。我々は第三者として意見を言います。我々の仕事の相手先は会社ですが、最終的には財務情報のユーザーである投資家や債権者に向いています。しかも、ユーザーとは言っても機関投資家や銀行などが中心で、消費者に直接向かい合っていないような気がします。

最近は、個人投資家がNISAやiDeCoなどの金融商品を企業を通じて購入していますが、企業年金を含めて自分がアセットオーナーであるという意識を持たない人が大部分であると聞いています。だからどうしても弁護士のように法律知識を使い人権を守ったとか、そういうイメージアップはできません。

だから、そこを考えなければならないと思います。会計士協会も漫画本を製作するだけではなく、わかりやすく公認会計士の仕事を社会に訴える必要があるのではないかと思います。だから、タレントであり公認会計士の仕事が説明できる人が出てくればいいなと思います。

公認会計士の待遇での評価はどうなのか?

三宅

三宅これから公認会計士を目指す人達にとっては大変興味のある問題だと思いますが、公認会計士の待遇についてはどのようにお考えですか。

八田

八田先ほどの魅力の続きで言えば、職業に魅力があるかどうかという場合の判断基準はいっぱいあると思います。一番直裁的なのは果たして儲かるのか、収入がいいのかということです。また、楽なのかどうかという視点もあります。そうすると、責任を取らなくてもいいのかということになってくる。恐らく、旧来型の監査業務は低リスク、あるいはノーリスクだったかもしれない。でも、それにしては私は恵まれた経済環境にあったと思います。

周知のとおり、現在は、公認会計士監査に対し、社会は厳しい目線を向けています。経済社会の最後の番人という非常に難しい仕事に関わるわけですから、当然リスクもあるけれども、それを超えるリターンが保証される職業でなければいけないし、これまでは別にして、今後は必ずやそういう方向に行くと思っています。だから、若い人たちの職業に対する満足度は十分満たされると思っています。

藤沼

藤沼今でも、報酬については誤解をしている人が多いと思います、若い人たちの報酬水準はそんなに低いわけではありません。ただ、結局こういう士業というのは、特に公認会計士はそうなのかもしれませんが、隠れたところで努力しなければいけないというところがあります。

例えば監査調書を整理するとかという。そうすると、結果的に時間のコミットメントがどうしても増えてしまうから、長時間働かなければなりません。だから、こういうことはプロフェッショナルとしてそれが払われる場合もあるし払われない場合もあるかもしれませんが、自分で努力して実力をアップしていかなければなりません。

そういう面ではある程度までに達してくると、これは逆に言うと収穫期に入るわけです。職業的にも報酬的にも、高成長とは言わないまでも、それなりの成長は期待できる職業ではないかと思います。

公認会計士の待遇での評価はどうなのか?
三宅

三宅参考までに、あくまで目安としての話ですが、大手A監査法人の場合は、スタッフ(550万円~700万円)、シニア(~1000万円)、マネージャー(~1200万円)、シニアマネージャー(~1500万円)、パートナー(~2100万円)、シニアパートナー(2100万円~)位だそうです。大手B監査法人の理事長の場合、報酬額は1億8千万円という報道もあります。

監査法人勤務の公認会計士の給料が高いか安いかは議論の分かれるところですが、監査法人は台形型の人事設計構造と言われ、あずさ、新日本、トーマツといった大手法人の場合は、パートナーの人数は所属する公認会計士(公認会計士試験合格者等を含む)の12~14%に当たる500~600人ですから典型的な労働集約型産業と言えるでしょう。

よく渉外事務所の弁護士の初任給が1000万~とか、パートナーが4000万~とかいう話も聞きますが、競争倍率、絶対数や母集団が違うので比較にはならないと思います。

八田

八田収入については、データの取り方によっていろいろあります。例えば、同じ雑誌媒体でも前回は母集団が少なくキャリアを積んだ公認会計士を対象にしたため、かなり高い数値が分布していたものが、監査法人勤務者のものを見ると、それほどびっくりするほど高くも低くもないという場合もあります。

それよりも、これだけリスクが高まり、ニーズが高まってきているのなら、仕事に応じて報酬が下がることはないと思います。だから、そんなに報酬で不満が出ることは、基本的にはないと思います。

公認会計士の待遇での評価はどうなのか?
藤沼

藤沼僕もそう思います。それと、当然ですが、自分で独立して、特色のある事務所を作ってオーナーになると、かなり稼ぐ人もいます。ただし、これは医者で開業して大成功という人もいるから何とも言えません。けれども、大法人でパートナーでリタイアした人ならそう悪くはないという感じがします。

八田

八田職業の議論をしていくと、いろいろなベクトルがあります。お金もあります。でも、例えばこれがものすごくきつくて大変で、でも収入が法外だとします。でもやらないという人もいますね。学生の会話を聞いていても、自分の適性に合った、そして満足度の高い、そして願わくはそれが何らかの形で評価されるような貢献度の高い職業に就きたいということです。そうすると、特定の人の利益ではなく、公共の利益を擁護するといった、もっと上段に構えた視点から見ると公認会計士は満足度の高い職業ではないでしょうか。

藤沼

藤沼そうだと思います。収入面での希望もあるかもしれませんが、いろいろなチャンスに恵まれている職業だということはいえるのではないでしょうか。退職後に、社外の取締役や監査役に就いている方も増えています。

三宅

三宅そういえば、お二人の場合、会計プロフェッショナルとして、グローバル企業の社外役員等を兼務し、多岐にわたって社会貢献される機会も得られておられますからね(笑)

本日は大変示唆に富んだお話をありがとうございました。

公認会計士の待遇での評価はどうなのか?

鼎談を終えて

本鼎談は、今をさかのぼること17年前、書籍化のプロジェクトとして企画されたものである。

会計プロフェッションを取り巻く、様々な論点(魅力、教育、試験制度、規制…)を取り上げて平易に解説し、専門家やビジネスマンのみならず、会計プロフェッショナル予備軍等を含む広い読者層に訴え、将来の会計人口増大、わが国の会計戦略の実現に貢献しようというものであった。

藤沼先生は、国際会計士連盟会長を退任後、日本公認会計士協会会長に就任、八田先生は日本監査研究学会会長と、最も血気盛んに危機感や問題意識を共有していた時期であり、あまりに熱気を帯びた議論の内容のため、お蔵入りとなったのであった。

今回、この幻の企画を、現代に置きなおしてリライトしていただき、実現の運びとなったことは望外の喜びである。

お二人のご厚意に報いるためにも、次代を担う会計プロフェッショナル人材の育成並びに社会貢献、正しい国家的会計戦略の実現に向け微力ながら努力精進する気持ちを新たにした次第である。