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特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談

会計プロフェッショナル ~汝の名は公認会計士~
その魅力、やりがいを語る中編

特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談 特別記念企画 藤沼亜起氏・八田進二氏・三宅博人氏鼎談

中編では、各界に羽ばたく会計士達、監査人からPAIB(組織内会計士)に関する話をメインに語っていただいた。日本においても、ついに、監査法人等に所属し、監査業務に従事する公認会計士(PAIPP)よりもPAIBの数が上回ることとなった。

2023年4月より、組織内会計士の能力発揮に向けた環境整備のため監査事務所以外の会社等の勤務先を登録することが定められている。

鼎談メンバープロフィール

藤沼亜起Fujinuma Tsuguoki

藤沼亜起 公認会計士中央大学商学部卒業、日本人初、世界300万人の会計士が所属する国際会計士連盟(IFAC)の会長に就任。IFRS財団Trustees(評議員)、日本公認会計士協会会長、日本公認不正検査士協会(ACFE)理事長、中央大学大学院戦略経営研究科特任教授等を歴任。わが国を代表する複数の企業等の社外役員に就任

八田進二Hatta Shinji

八田進二 青山学院大学名誉教授、大原大学院大学教授、博士慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了、金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長・監査部会長)日本監査研究学会会長・日本ガバナンス研究学会会長、わが国を代表する複数の企業等の社外役員を歴任。内部統制のデファクトスタンダードであるCOSO報告書を翻訳したことでも有名

三宅博人Miyake Hiroto コーディネーター・進行

三宅博人 公認会計士 中央大学経済学部卒、経済人コー円卓会議(CRT)監事、(公社)日本内部監査研究所研究員、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)企画委員。
ACFE評議員、日本公認会計士協会国際委員会委員等を歴任

公認会計士からの転進~PAIB(組織内会計士)へ

三宅

公認会計士からの転進~PAIB(組織内会計士)へ 三宅それでは、一度、監査を経験した人たちが、いろいろな業界に羽ばたいていく場合についてお伺いします。米国では、会計事務所で監査業務に従事する会計士をPAIPP(Professional Accountants in Public Practice)、企業、教育界、政府や官公庁等で働く公認会計士をPAIB(Professional Accountants in Business=組織内会計士)と区別され、約40万人の公認会計士の半数以上がPAIBだと言われています。

日本でも、最近は、さまざまな業界で活躍するPAIBが増え、日本公認会計士協会でも組織内会計士協議会が立ち上がりネットワークもできあがりつつあるようです。PAIBの詳細については別途機会を設けたいと考えておりますが、こうした傾向についてお伺いします。

例えば欧米ですと、日本とは異なり、経営者の市場が流動化しているという違いはあるものの、公認会計士出身のCEO(最高経営責任者)も少なくないようにも聞いています。この点は、どうお考えですか。

ジョブ型雇用と会計プロフェッショナル~CFOからCEOへ

藤沼

藤沼わが国の会社では、一般に新規採用の人たちをトレーニングして会社の年功序列のピラミッドの中に入れています。しかしこれは特に会計の分野などの分野で徐々に崩れ始めています。昔の大手企業は新規採用した人たちがメインでしたが、今は段々変わってきています。いわゆる中途入社を基本とするジョブ型雇用の議論です。

特に会計の分野では専門職が要求されます。会社の中でも何年入社というのはそれほど重要ではなくなってきました。その傾向を踏まえると、経理部門出身者の中で監査経験のある公認会計士が採用されて、会計報告のみならず、税務、予算や経営計画、内部統制、IT分野などいろいろな分野について対応できる優秀な人がいて、その人がCFOになりやがてCEOにもなりうると思います。

わが国の場合、まだまだ時間がかかるかもしれませんが、海外ではCFOからCEOというのは非常にオーソドックスな上がり方です。もちろんCFOがCEOをやる場合に、エンジニアリング(技術)のバックグラウンドがないとか、営業のバックグラウンドがないなどのいろいろなマイナス面も指摘される場合がありますが、バランスの取れた経営者ということになると、CFOからCEOに上がるというのは非常にロジカルだともいえます。そういう点ではチャンスはものすごく大きいと思います。

ジョブ型雇用と会計プロフェッショナル~CFOからCEOへ
八田

八田雇用の流動性を高め、専門職の方たちが十二分に活躍できる環境を構築するためには、ジョブ型雇用が浸透することが重要だといわれています。確かに、これまでのわが国の雇用形態は、新卒一括採用で、組織の中でトレーニングしながら次第に職位を上げていくという、メンバーシップ型雇用が主流ですが、個々人の専門スキルが習得されないため、定年後の再就職等が極めて困難であるといわれています。

その意味で、会計の専門知識を習得している会計プロフェッションは、ジョブ型雇用の社会では強みになってくるといえるでしょうね。

藤沼

藤沼その通りですね。

トップのアカウンタビリティ(説明責任)~知らなかったでは済まされない

八田

八田経済活動にかかわりを持たない人はいません。したがって、どういう立場の方であっても、自分にかかわりを有する経済活動については自分の言葉で説明すること、加えて、その元になっている会計情報を理解し、説明できるための基礎知識を持っていただきたいと思います。言われるままの、あるいは人から与えられた情報が、正しいかどうかも判別が付かないようでは困ります。

上に立つ人は、社会的にもアカウンタビリティの重要な一翼を担う立場から、基本的な会計知識が必要だと考えています。情報化社会ですから、こうした流れを止めることはできないし、ますます、透明性の高い環境が社会から求められています。そのため、早くから正しい認識と理解を有しておかないと、トップとしての責任を履行することも難しくなるのではないかと思います。

つまり、知らなかったとか、聞いていなかったとか、説明を受けていなかったという言い訳は通用しません。とりわけ上に立つ人は、そういった主体的な対応を講じていく必要があると思います。

三宅

三宅アカウンタビリティを担うトップにはすべからく会計の基本的な知識が必要、経営あるところに会計あり。会計は世界共通の経済言語というわけですね。

公的分野における公認会計士の活躍

三宅

三宅米国では1万人以上の公認会計士が政府やその他の公的分野で勤務していると聞きますが。

藤沼

藤沼私は、かねてより、自治体などのマネジメント、例えば市長になるとかという話でも、公認会計士が十分にその使命を遂行する能力があるのではないかと思っています。プライベートセクターだけではなく、公的分野の組織のリーダーには、行政官や弁護士だけでなく、公認会計士にとっての適職の一つなのではないかと思います。

八田

八田全くその通りです。よく会計とか監査の話をすると、一般の民間会社がすべてで、それ以外は添え物的な議論をしています。しかし、活動しているのは公的機関の方がもっと大きいし、恐らくそこで表面に出てこないような非効率・不効率な部分、あるいは不当な処理も潜在しているのではないかと思うと、そちらに大きなメスを入れていかないと、健全な経済社会を構築することはできないと思っています。

かつて、私は国連のガバナンス改革会議の委員を務めたことがありましたが、この流れは待った無しの状態です。むしろ会計の知識のない人間にはリーダーの資格はないといってもいい過ぎではないでしょう。

会計の知識を持ってそれなりの役割を担っている人たちで、「会計の勉強をするのではなかった、この時間にほかのことをやっていれば良かった」と悔いる人は、例外なくいないと思います。逆のケースはあるでしょう。やっておけば良かったと(笑)。

公的分野における公認会計士の活躍
藤沼

藤沼そうそう。会計をわからない、苦手だという人が多い。私の周りもみなそうです。

三宅

三宅いわゆる、首長と言われる自治体のトップに公認会計士というのは興味深いお話です。

八田

八田例えば国のトップが必ずしも会計専門家ではなくても、会計シンパであればよいと思っています。会計に対する理解と支援体制があるということを考えると、故石原慎太郎東京都知事は、東京都の財政赤字に大鉈を振るって改革をするために、東京都には貸借対照表もないのでは話にならないというメッセージを出して、一気に地方公共団体などの公会計改革が始まりました。彼は、都知事としての自身の一番の実績は東京都における公会計改革だと明言しています。彼自身が学生時代に、父親に言われて簿記会計を勉強した時期があったそうです。

彼は会計士ではないけれども会計的シンパというか、恐らく、会計に対してある程度の正しい見方を植え付けられたのだと思います。だから公的な立場に立ってもそれを言い続けるし、実際にそのような方向性を導き出しました。その辺は高い評価をしてもいいと思います。

藤沼

藤沼確かに石原さんは大したものですね。一橋大学では文学の方に行っていましたが、一橋大学は、昔は会計の一つのメッカでしたからね。

三宅

三宅なるほど。一方で、永田町の方に目を向けますと、現在、公認会計士の国会議員は6名(衆議院議員3名、参議院議員3名)、会計士補の国会議員が1名(衆議院議員)います(2023年6月時点)。弁護士の35名(衆議院議員20名、参議院議員15名、2022年10月時点)と較べると見劣りする数ですが一層の活躍を期待したいところです。

また、あまり知られていませんが、公認会計士は弁護士とともに高度の専門資格を有する者として、国家試験に合格することなく国会議員の政策担当秘書になる資格も有しており、代議士の政策立案のサポートをすることも可能です。政策担当秘書の国家試験は国家公務員第1種試験に相当する難関試験です。日本の政策決定プロセスのダイナミズムを経験するためにチャレンジするのも面白いかもしれませんね。