タイタンの惨劇・エンロンの衝撃 ~経営者の過信がもたらす悲劇~

時事ドットコムニュース 2023年06月23日
「海底に破片、5人の生存絶望 タイタニック見学の潜水艇―捜索、最悪の結末・米」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023062300765&g=int

タイタンの惨劇

レオナルドディカプリオの主演映画でも一世を風靡した、1912年の処女航海中に北大西洋上で氷山に激突し沈没した巨大客船「タイタニック」、その犠牲者は1500人超と言われる。4000メートルの海底深く沈むこの文化遺産を観察するがために、潜水艇「タイタン」に乗船して挑戦した著名な大富豪や冒険家を含む5人の尊い命が、爆縮(圧壊)と言われる一瞬の事故により、永遠に失われることなった。

生存の希望を胸に固唾を飲んで見守っていた世界中の国民も胸を痛めたはずだ。現在、メディア上でその原因について様々な情報や憶測が飛んでいるが、筆者はこの事件を知り、今世紀初頭に発生した、いわゆるエンロン・ショックを想起した。

エンロンの衝撃

エンロンは、1980年以降、デリバティブを駆使したユニークなビジネスモデルを構築、本来のテリトリーである電力、ガスを超えて、エンロンオンラインなる商品市場を開設、飛躍的な急成長を遂げた。当時はリスクマネジメントの優良企業として世界中から賞賛されたが、やがて粉飾決算が露呈する。2001年12月に米連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用となり、多くの従業員と家族、投資家達を悲劇の底に突き落とした。

経営者による過信の悲劇

両社の共通点

  • 革新的な経営技術への妄信
  • 監査、認証の軽視
  • 内部告発者を無視

稀代の悪質な経済事犯と、まだ過失責任の有無も明らかになっていない本件を同等に論ずることは、時期尚早であるかもしれない。

しかし、ツアー運営会社の最高経営責任者(CEO)ストックトン・ラッシュ氏は、かつて海洋学者30名がその危険性を指摘していたにもかかわらず、タイタンの安全性には絶対の自信を持っていた。水深4000メートルへ潜れる超深海潜水艇は世界に10隻しかなく、タイタン以外全てが認証を受けているにもかかわらず、自社の革新的な(?)技術を過信し、その必要性を否定していたという。今回も自身が操縦士を務めているところを見ると、それは本音だったのだろう。

他方、エンロンのトップマネジメントであるケネス・レイやアンドリュー・ファストゥは、最先端の金融工学に基づく自社のビジネスモデルへの高揚感、経営者としての全能感と陶酔感に包まれていた。また、監査を担当する当時世界4大会計事務所の一角を成したアーサー・アンダーセン(2002年解散)に自社の内部監査部門をフルアウトソースし、常時100人以上の公認会計士が自社内に常駐する状態を「内部監査の革命」と公言して憚らなかった。本来、それこそが会計士とクライアントとの独立性の観点から問題であることは言うまでもない。

また、両社ともに内部告発者の発言に耳を貸さなかった点も共通している。

そこに、経営者の過信を見るのである。

ラッシュ氏の奥方は、1世紀前に、タイタニック号に乗船された犠牲者の遺族だというが、その悲痛はいかばかりだろうか。

著者プロフィール

三宅 博人(みやけ ひろと)

【現職】
公認会計士
公益財団法人日本内部監査研究所 研究員
経済人コー円卓会議日本委員会 監事
日本コーポレートガバナンス・ネットワーク 企画委員

【専門分野】
コーポレート・ガバナンス、内部監査、リスクマネジメント、CSR(企業の社会的責任)、サステナビリティ 等

【経歴】(関連諸団体のみ)
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 客員教授
日本公認会計士協会 会計士補会・代表幹事/最高顧問、国際委員会・委員(国際監査基準担当)、東京会・広報担当幹事
日本公認不正検査士協会 評議員
日本内部統制研究学会(現・日本ガバナンス研究学会)監事

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