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第5章 決算書の読み方 第2節 過去と比較する

1.過去と比較すると現状の良し悪しがわかる!

次は、同じ会社の過去の決算書と比較する方法です。過去の決算書と比較することによって、今年の決算書の結果が良かったのか、悪かったのかを知ることができます。

例えば、先ほど説明したトヨタ自動車ですが、2017年3月期の連結ベースでの売上高は約27兆円、営業利益が約2兆円でした。単独で見てもイメージの湧くものと比較しても、すごい金額だということがわかりました。

ですが、同じトヨタ自動車の前年2016年3月期の連結ベースの売上高は約28兆円で、営業利益が2.8兆円した。よって、2016年3月期と比較をすると、売上高で約1兆円、営業利益で約8,000億円減少してしまっているのです。

2017年3月期のみを傍から見ているだけだと、「すごい売上高と営業利益だ!」ということになる訳ですが、前年の2016年3月期から比較すると売上高も営業利益も大きく減っているので、トヨタ自動車からしてみると、2017年3月期の売上高約27兆円はちっともうれしくなく、むしろ残念な結果だと言えるのです。

2.東京電力

もう一つ、過去との比較の具体例として、東京電力をあげておきます。東京電力は、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、原発事故を起こしましたが、その直後の会計期間のキャッシュ・フロー計算書における「営業活動によるキャッシュ・フロー」は約△28億円でした。

その前の会計期間では、「営業活動によるキャッシュ・フロー」が約1兆円あったので、これまでは本業からのキャッシュの流入が約1兆円もあったのに、原発事故によって本業からのキャッシュが流入から流出に転じてしまい、その流出額も約28億円なので、原発事故が東京電力の本業に与えた影響がいかに大きかったかを物語っています。

このように、同じ会社の現在と過去の決算書を比較することにより、現状の良し悪しを知ることができたり、その会社で起きた事象の結果などを知ることができるようになります。

3.過去と比較するときの前提

現在と過去の決算書を比較する際の前提として、いずれも同じ方法で決算書が作成されていることが必要になります。決算書を作成する際の会計基準には、その計算方法としていくつかの方法が認められている場合があります。

例えば、減価償却というものの計算方法として、定額法、定率法、級数法、生産高比例法が企業会計原則上で認められている方法ですが、企業は決算書を作成する際に、自分の会社に最も適していると思われる方法を選んで作成すれば良いことになっています。

そこで、過去に決算書を作成した際に用いた方法と、現在の決算書を作成する際に用いた方法とを変えてしまうと、適正な比較ができないことになってしまいます。同じ方法で作成したからこそ、比較に意味があるわけです。

そのようなことを考慮して、企業会計原則には、「継続性の原則」という原則が設けられており、一度採用した処理の方法は毎期継続して適用し、これを正当な理由なく、みだりに変更してはならないとされています。

執筆者プロフィール

南 伸一
簿記の教室メイプル代表

1971年鹿児島県生まれ。
1995年公認会計士2次試験合格。大手監査法人に勤務後、1997年に簿記の教室メイプルを立ち上げる。大手町校(東京都千代田区)と草加校(埼玉県草加市)の2教室の他、通信講座も行っている。著書に「絵でみる簿記入門」(日本能率マネジメントセンター)、「超スピード合格日商簿記3級」(成美堂出版)、「ギモンから逆引き!決算書の読み方」(西東社)などがある。

現在は、教室の経営、講義、執筆の他に、大手TV局100%子会社の財務・経理の責任者業務、大手電力会社の審査担当部署の会計アドバイザー業務、監査法人での監査業務など、様々な実務にも携わっている。